客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

 晃の姿が見えなくなると、緊張の解けた二葉は匠の胸に抱きつき、力が抜けていく。

 崩れ落ちそうになった二葉の体を抱きしめ、匠は笑い出す。

「本当に二葉って突っ走るよね〜! 冷や冷やしたよ〜」
「あっ……またやっちゃった……ごめんなさい。私言いすぎた?」
「さぁ、どうかな。あの人にはあれくらい言わないとわからないんじゃないかな」
「……それなら良かった……。あっ、真梨子さんは? 大丈夫だったかな……」

 匠は頭の中で、兄が真梨子を連れていなくなったシーンを回顧する。その上で、二葉には伏せておこうと考えた。

「結構時間稼げたし、大丈夫じゃないかな。ただこれからどうなるかはわからないけど……」
「うん……」
「もうここからは夫婦の会話だからね。二葉は先生からの連絡を待つこと。わかった?」
「も、もちろん」

 二葉が頷くと、匠は彼女の頭を撫でる。

 それからハッとしたようにバーテンダーに声をかけた。

島崎(しまざき)さん、お騒がせしてすみません」
「いえ、ちゃんと社長から連絡をもらっていたので大丈夫です」
「っていうか、なんで兄貴が……」

 匠が言いかけるが、島崎が遮る。

「匠さん、野暮なことは言いっこなしですよ」

 にっこり笑って人差し指を口の前に立てた島崎の仕草に、匠と二葉は意味がわからず首を傾げた。

「まぁいっか。二葉、これからどうする? 飲み直す? っていうか、俺は飲んでないけど」
「私も一杯しか飲んでないよ。でもちょっと疲れちゃったかも……なんか精神的にクタクタ……」

 その時、二人の視線が合い微笑み合う。

「……もしかして同じこと考えた?」
「それはわからないよ」
「じゃあ一緒に言ってみる?」
「いいね。そうしよう。せーのっ……!」

「匠さんのお家に行きたい」
「俺の家に来る?」

 意見がピタリと合い、二人は嬉しそうに手を繋ぐ。

 もういっそのこと、一緒に暮らしたい……と言いかけて、その言葉をグッと飲み込む。

 まだ早い。とりあえず《《あのこと》》を終わらせてからじゃないと……。匠は二葉にバレないように拳を握りしめた。

 
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