客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
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終業時間の少し前になり、突然匠から着信が入ったため、二葉は慌てて電話に出る。
『あっ、二葉?』
「あっ、じゃないです! 今日誰もいないなんて聞いてないんですけど」
『ごめんごめん。急に俺の仕事で人手がいるようになっちゃってさ、手伝ってもらってたんだ』
「……それなら一言連絡くれても良いのに……」
『ドタバタしちゃっててさ、本当にごめん! 今ようやく一段落したから、良かったらホテルのレストランでランチしない?』
「でも仕事が……」
『木之下がA社の資料さえ集まれば、あとは来週でいいって』
「本当? あっ……でも私が行って、一緒にランチしてたらおかしくない?」
『大丈夫。みんな外に食事に行ったから、ここは俺しかいないよ』
二葉は机の上の資料を見る。確かにA社のものは終わってる。しかもホテルでランチだなんて、魅力的すぎる。
「じゃあ……行っちゃおうかなぁ……」
『うん、慌てなくて大丈夫だからね。待ってるよ』
電話を切った二葉は、トイレに駆け込みメイクを直す。だって仕事中にランチデートだなんてドキドキする。
そう考えてから、二葉は落ち込んだように肩を落とす。
匠さんが転職したら、どうなるんだろう……。こうやって毎日会うことも叶わなくなっちゃう。
でも会いたい時にそばにいるなんて、本当はすごく贅沢なのかもしれない。これからは時々会うのが当たり前の生活になるんだ……。
少し寂しさを感じながらも、荷物をまとめると、匠の待つホテルへと向かった。