客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
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二葉がホテルのロビーに到着すると、匠が手を振って駆け寄って来た。
「早かったね。慌てなくて良かったのに」
「だって……他の人が帰ってきたらまずいかなって思って……」
「まぁね。そうしたら俺が忘れ物をして届けてもらったって言えばいいよ。で、お詫びにランチをご馳走した」
「わっ、それいいね!」
匠は二葉の手を引いて歩き出す。向かったのは、晴れた日にはオープンデッキで食事も出来るお店だった。とはいえ今日は寒さが身に染みるため、二人は室内の席に案内された。
パスタのランチをそれぞれ注文し、二葉はホッと息を吐いた。
「仕事中に匠さんとランチするのって初めてなんだよ。だからちょっと嬉しいな」
「確かに。会社では隠してるからね。もしかしたら不自然なくらい避けてたかもね」
「……匠さんが辞めちゃう前に、こういう時間が作れて良かった」
頬杖をついて嬉しそうに笑う二葉を見て、匠は困ったように頭を掻く。
「あぁ、もう、二葉ってば……そういう表情は、仕事の後の二人だけの時にしてよ。我慢するの大変なんだから」
「うふふ、そういう匠さんが大好きよ」
二人の前にパスタが運ばれてくると、食欲をそそる香りに、思わず頬が緩む。きっとお腹が空いてたから悲しくなったんだ。食べたら元気になるはず。
二人は食事をとりながら、他愛もないおしゃべりに花を咲かせる。ゆったりとした時間が心地良かった。
「今日出勤したら誰もいなくてびっくりしたけど、まさかこんなサプライズがあるとは思わなかった」
「うん……それなら良かったよ」
匠は微笑むと、腕時計を見る。それを見た二葉は少し寂しくなった。
楽しい時間もそろそろ終わり。私もオフィスに戻らないと。