客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
匠はゆっくり二葉に近付くと、ぎこちなく笑う。彼から漂う緊張感が伝わり、二葉も呼吸の仕方を忘れてしまった。
二葉の胸が高鳴る。このシチュエーションってもしかして……。
匠は大きく深呼吸をすると、二葉を真っ直ぐ見つめる。
「仕事中だし……いや、むしろ本当に仕事中なんだけど……」
何やら口籠るが、ハッとしたように我に返ると、二葉に花束を差し出す。
「俺たちらしいものって何かなって考えた時、この花が頭に浮かんだんだ」
たくさんの種類の花の真ん中に、一輪のピンク色の蓮の花が存在感を示す。
「仏前式ではよく使われるらしいんだけどね。二葉の好きな如意輪観音様も手に持ってる」
「うん、そうだね……」
「俺、六年前に二葉に出会えて本当に幸せだった。二葉に会えなかったら、きっと今の俺はないと思うんだ。だから二葉、俺と結婚してくれませんか?」
あまりにも予想外の展開に、頭と心が追いつかない。でも瞳から溢れ出る涙が、二葉の気持ちを表しているようだった。
「二葉?」
困ったように匠が二葉の顔を覗き込む。その瞬間、二葉は匠に抱きついた。
涙と笑顔が同時に溢れるなんて、これが嬉し泣きなんだ……。
「ありがとう……すごく嬉しい……」
「うん……」
「匠さん、これからもよろしくお願いします」
「ありがとう……こちらこそよろしく」
二人は喜びのあまり抱き合う。幸せの余韻に浸る中、それは起こった。