客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
その姿を見て、二葉は何かを感じ取る。匠は浴槽に腰掛けたまま、下を向いて項垂れている。
何かを思い出したのだろうか……。明らかに苦しそうだった。でも何と声をかけたらいいのかもわからなかった。
二葉は匠の隣に腰掛けると、彼のことを抱きしめた。私にはこうしてあげるしか出来ない。
匠は二葉の手を握り、彼女に寄りかかる。
「きっと二葉は何か勘づいてるんでしょ?」
「はっきりとはわからないけど、何か辛いことがあったのかなって……」
匠は浴槽に貯めていた湯を止めると、二葉のバスローブを取り去る。二人は湯に身を沈め、ホッと一息ついた。
匠の足の間に座り、後ろから抱きしめられる。首筋に触れる彼の唇がくすぐったい。
「……高校の時にさ、好きだった先生がいたんだ。諦めきれなくて、卒業式の日に告白したんだけど玉砕。彼氏がいるって知ってたし、そうなるってわかってたんだけど。その翌年に結婚したって聞いて、心から祝福したんだ」
二葉の胸の上を彷徨う匠の手は、どこか居場所を探しているようにも感じる。
「大学四年に上がる前の春休みに、偶然街で先生と再会したんだ。懐かしくて二人でお茶して話してたらさ、なんか旦那と上手くいってないって話になって……俺もずっと好きだった人だし、断りきれなくて……ホテルに行ってた」
二葉は匠の手に自分の手を重ねる。ここでいいんだというように、彼の手を胸へと誘導する。
「……それから月に二回くらい呼び出されるようになって……その度に関係を持った……」
「……やっぱりまだ好きなの?」
「わからないんだ……でもあの人の顔を見ると辛くなる……」
「……今も続いているの?」
匠は言葉にはせず、ただ頷いた。