客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
* * * *

 二葉は匠の仕事ぶりに驚くしかなかった。彼は二葉の何倍ものスピードで仕事を終わらせていく。彼がやり手と言われる理由が少しだけわかった気がした。

 早めに打ち込みが終わり、資料を戻すため二人は資料室に入る。誰もいないのを確認すると、どちらからともなく口を開いた。

「久しぶり……だよね?」

 あの頃と変わらない優しい声と笑顔に、二葉は安心する。

「うん、久しぶりだね。髪の色が違うし、スーツだから全然わからなかった。でも元気そうで良かったです」
「うん、二葉も元気そうで安心した」

 何を話そうか……再会を夢見たこともあったが、現実にあるなんて思わなかった。だってこんな広い世の中で、たった三日間一緒に過ごしただけの人。

 同じ東京にいたとしても、そんな偶然が起きる可能性はないに等しいはず。

「あの……ずっとイギリスにいたんですか?」
「うん。和がコンセプトのホテルをオープンさせてね、そこの企画な関わってたんだ。まさか二葉がこの会社にいたとは驚いたけど」

 資料を棚に戻しながら、匠は二葉に笑いかけた。

「去年から中途採用で。だから匠さんとはどちらにしてもすれ違いでしたね」

 資料を片付け終えると、二葉は資料室から出ようとした。しかしその手を匠が掴む。
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