客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
同時に、あの時の記憶がフラッシュバックする。腕を掴まれ部屋に引き込まれた初日の夜。思い出すだけで体が震える。
今も私の中に残る記憶は、深いところにまで根を張っているようだ。
「匠さん?」
「……ねぇ二葉、約束を覚えてる?」
「もちろん。坂東三十三観音霊場ですよね?」
匠は頷く。
「もし二葉に付き合ってる人がいなくて……」
「いません。匠さんは?」
「もちろんいないよ。もしまだ巡礼が好きなら……」
「好きです」
前のめりな反応に吹き出しつ、最後まで言おうとする。
「今度一緒に坂東三十三観音霊場を巡らない? もちろん車は出す」
二葉は匠ににっこりほほえむ。
「いいんですか? 是非ご一緒させてください! 坂東は広いから、電車だと大変だなって思ってたの」
匠は二葉の手を掴んだままでいたことに気付き、慌てて離す。
「あのさ……俺との再会、ちょっとは期待してた?」
しかし二葉は首を横に振る。
「もちろん出来たら素敵だなぁとは思ったけど、無理だろうっていうのが正直なところかな」
「そっか……」
匠は少し寂しそうに微笑んだ。でもね、約束はここまで。この先のことはまだわからない。
それに前回の現実逃避をした私たちではなく、今回はお互いただの同僚としての再会。ならば新しい気持ちで彼と向かい合いたいたかった。