客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
* * * * 

 二人は個室のあるエスニック料理の店で待ち合わせをした。お互い会社ではただの同僚でいたかったので、人に見られないようにというのが一番の理由だった。

 注文を終え、二人はそれぞれのグラスを手に持って乾杯をした。

「そういえば匠さんの歓迎会、週末にするみたいですよ」
「古巣に帰って来ただけだし、別にいいんだけどな」
「みんなは集まって飲む理由が欲しいんですよ」
「まぁ確かにね」

 二人は笑い合う。

「なんか不思議だね。六年も経ってこんなふうに再会するなんて。あれから……その、彼氏とはどうだった?」
「あぁ、すぐに別れました。なんかね、匠さんのおかげでいろいろ気付いたっていうか。付き合ってるっていう枠に囚われてだだけだったのかなって」
「枠?」
「そう。もう気持ちはないのに、別れる理由も見つからなくて、なんとなく一緒にいたの。あいつは浮気して、私の好きなものも否定したのに、それが当たり前になってた。匠さんは私の好きなものを肯定して、その……私の体がおかしいんじゃないってことを教えてくれたでしょ? おかげで私、自分を見失わずに済んだ」
「じゃあちゃんとお別れ出来たんだ」
「お陰様で。まぁでもその後のだめんずたちのおかげで、今は仕事を頑張るって決めたんですけどね」

 最後の二葉の言葉に、匠は思わず吹き出した。

「なんか最後にすごいぶっ込みがあったんだけど」

 口に出した後、これは匠に話すことではないと思って話を逸らそうとしたが、そう上手くはいかなかった。

「もしかして転職したのも、だめんずのせいなの?」
「まぁ……そうです」
「どんな男?」
「……妻子持ちの上司です。仕事で悩んでる時にやたらと親身になって話を聞いてくれたんです。でも会社だけならまだしも、二人で飲みに行こうってしつこいし、スキンシップも増えて……。気付いたら私が上司に取り入ろうとしていたみたいな噂になってました」
「うわ、えげつない……」
「ですよね⁈ だから辞めざるを得なくなって転職です」
「……でも、そういう展開で不倫ってよく聞くけど、よく流されなかったね」

 匠が感心したように言うが、二葉はその顔を見てため息しか出なかった。届いた生春巻きを口に頬張る。
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