客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

「私資料室にファイルを戻して来ます。何か必要なものはありますか?」
「ん〜今は大丈夫かな。ありがとう」

 二葉はファイルを抱えて資料室に向かう。片手でドアを開けて中に入る。ファイルを棚に戻していき、最後の一冊を片付けるため奥に行くと、急に背後から抱きしめられる。

 窓ガラスに映った匠の姿を確認して、二葉は笑顔になった。

 匠さんは疲れた時、人の目を()(くぐ)って私の元にやってくる。弱っている時に頼られるのは前と同じだけど、誰でもいいわけじゃなくて、ちゃんと《《彼女》》の私を求めてくれるのは嬉しかった。

「これだけ片付けさせて?」

 匠の手が緩み、その隙に全て片付け終える。二葉は彼の手に触れた。

「素敵なプレゼンでしたよ。木之下さんはがっかりしてたけど」

 二葉が匠の方を向くと、唇が重なる。ゆっくりじっくり、とろけるような口づけだった。唇が離れても、匠は二葉の唇を何度も甘噛みする。

「二葉の口から別の男の名前は聞きたくないなぁ……。あーあ、二葉が俺の補佐なら良かったのに……」
「それだと公私混同しちゃうから、少し距離があった方がいいんですよ。和田くんも頑張ってるじゃないですか」

 和田とは匠の補佐に抜擢された新入社員だった。彼は選ばれたことを喜び、毎日真摯に仕事に向かっている。
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