客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
お堂に写経を納め、納め札を箱に入れる。そして般若心経を読み終えた二葉は、清々しい気分で納経所に向かう。すると同じくらいの年の男性が並んで待っていた。
背が高くて、明るめの茶色の髪、長袖のTシャツにデニムと至ってシンプルな服装だった。
ふと男性の納経帳の中が見え、二葉は驚いた。既に重ね印が押してある。何度も札所を回る場合、一度書いていただいた御朱印の上に朱色の印を重ねて押してもらうのだ。二葉は今回がニ度目の巡礼となるため、ようやく重ね印を押してもらえることが嬉しかった。
この人、私と同じくらいだし、見た目は軽そうなのに、もう三回目なの? すごい……!
彼の順番が来る。
「お願いします」
ちゃんと書いてもらう場所を開いて納経帳を渡し、しかも三百円を握りしめる姿に二葉はときめく。
納経帳を受け取る時に頭を下げてお礼を言う姿を見た時、この人と話してみたいと思った。しかしそんな間も無く、彼は歩き去ってしまった。
二葉は自分の納経帳に印を押してもらう間、彼の背中が徐々に小さくなるのを、少し切ない気持ちで見ていた。
下心とかではなく、ただどんな経緯で巡礼を始めたのかとか、普段も一人でまわっているのかとか、好きなことを共有したかった。
だって私の周りには、一緒に語り合ってくれる人がいないから。
彼は歩きだろうか。それとも車? 私はこのまま順番に回る予定だけど、もし彼が同じ順打ちならきっとどこかで会えるかもしれない。