客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
そ、そんなに顔に出てるのか⁈ 冷や冷やしながら席に戻ると、木之下が匠を見ながらため息をついた。
「そういうことか……まぁバレないようにな」
「な、なんのことだよ⁈」
「いや、完全にバレるだろ。もう少し酒でも飲んで紛らわすしかないな」
そう言われて、慌てて目の前にあったビールのグラスを飲み干す。
「……でもちょっと意外だったよ。お前がああいう子がタイプだったとは」
「……なんのこと?」
「まぁしらばっくれてもいいけど。仕事に支障が出るような付き合いはやめてくれよ。例えば会議の前の日にケンカとかさ」
「いや、それだと俺にも支障出るじゃん」
「お前は出ればいいさ。俺が勝つにはちょうどいい」
「お前な……」
木之下はビールのグラスに口を付け掛け、再びテーブルに戻す。
「なぁ、社内恋愛ってどうよ?」
「さぁ……まぁ面倒くさいよな」
「じゃあなんで社内で手を出してんだよ」
「たまたまだよ。元々知り合いだったから、それが発展しただけ」
「えっ、そうなのか?」
「そうそう。でもお前がそういう話題を振るって珍しくない? なんかあるわけ?」
「別に。お前を心配してやっただけだよ」
「ふーん……」
いつもと違う空気を木之下から感じるのは気のせいだろうか。こいつも何かあるのかな。
「社内だとつい隠したくなるじゃん。これが社外なら大っぴらに出来るんだろうな〜とか思うと、やっぱり面倒だと思うよ。でもこっそりイチャついたりすると、なんか妙にドキドキするというか、いけないことしてる気がしてちょっと興奮する」
「……どこでイチャついてんだよ。気持ち悪い」
「そう言うと思ったから言わない。お前が誰かとイチャつきたくなったら聞いてくれ」
木之下は何も言わなかったが、ビールを飲み干してからの深いため息が、彼の苦悩を物語っているようだった。