客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 その時、匠のスマホが鳴る。こんな時間に誰だろう……そう思って画面を見た匠の表情が曇る。

「副島? 出なくていいのか?」
「あ……あぁ、知らない番号だからやめておく。前にマンションのセールスとかで痛い思いしたし」
「あぁ、あるよな。あれってどこから番号を入手するんだ?」

 木之下にはああ言ったが、今の番号の下四桁には覚えがあった。電話帳からは消去したから名前は表示されなかったが、確実にあの人の番号だった。

 今頃になってなんなんだ……匠は下唇を噛む。

 もう二度と会うつもりはない。だって二葉のおかげで俺だって前に進めたんだから。もうこれ以上振り回されるのはごめんだ。

 匠はその着信を無視した。しかし再度着信が鳴り、慌てて拒否する。

 なんで先生は俺の番号を知ってるんだ……? 匠の中に恐怖に似た緊張が走る。

 先ほど別れたばかりなのに、どうしようもなく二葉に会いたい。あの日のように、彼女の腕に抱かれ、耳元で大丈夫だと言って欲しかった。
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