客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

 若者が住みたい街と言われるだけあって、遅い時間であっても人が多く賑わっていた。

 歩き始めてそんなに経っていなかったが、匠の足が止まる。

「このマンションだから。覚えてね」

 二葉は思わず目を細めた。そこは低層とはいえ、驚くほど素敵なマンションだった。何も考えずにエントランスに入っていく匠の後ろ姿を、二葉は慌てて追いかける。

 高級ホテルのような内装のエントランスとエレベーターに衝撃を受け、腰を抜かしそうになった。

「秩父の時も思ったけど、匠さんって何者なの?」

 すると匠はいたずらっぽく笑う。

「さぁ、何者なんだろうねえ」
「……どうしよう……今になって危機感を覚えてる……」
「あはは! じゃあ今から逃げ出す?」
「……意地悪なんだから」

 エレベーターを降り、廊下を突き当たりまで歩く。301号室の鍵を開けて中に入ると、普通より少し広めの玄関が現れる。白いタイル朝で、明るい印象を持つ。
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