客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
「……意味がわかりません。初めて会った人の車に乗るなんて恐ろしい……!」
「あはは、だよね。でも俺だって仏様の前で悪いことはしないよ。ただ歩きだと大変だし……さっきの君の言葉がさ、ちょっと胸を打ったんだよね」
「私、何か言いましたか?」
「同じタイプの人と話したいってやつ。確かに俺もそういう話をしてみたいなって思ったんだ」
どこか寂しそうな表情をする人だった。放っておけない、そう思った。
「でも初対面の人の車じゃ確かに怖いよね」
彼が引き下がろうとした時、二葉は衝動的に両手で彼の手を握った。
「あなたは三巡目の人で、挨拶もきちんと出来て、来る前に百円玉をたくさん両替してくる様な人です。何より悪い人が輪袈裟をつけるなんて聞いたことがない!」
「そ、そうかな?」
「そうです! だから……あの……良かったら一緒にまわってもいいですか?」
勢いよく言い放った二葉に圧倒され固まっていたが、急に吹き出したかと思うと、大きな声で笑い出した。
「びっくりした〜。そんな勢いよく話せるんだね。でも楽しい巡礼になりそうだ」
彼の差し出した手に、二葉はドキドキしながら自分の手を載せた。
「俺は匠。大学四年生」
「二葉です! 大学ニ年生です!」
なんだかいけないことをしている気分。ちゃんと家に帰れるかな……頭の中をサスペンスドラマのワンシーンが浮かんでゾッとする。
でも……さっきの参拝の姿勢が大丈夫だと言っている……はず。
二葉は緊張しながら、匠の黒のミニバンに乗り込んだ。