客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

 テーブルに運ばれてきたカップを見つめた後、真梨子は口を開く。

「あなた、匠とはいつから付き合ってるの?」

 この人は匠さんが日本にいなかったことを知っているのだろうか。そこを探るためにも伏せておこう。

「お付き合い自体は三ヶ月です。でも出会いは六年前に遡ります」
「六年前……?」
「はい。私は当時の彼のことで辛い思いをしていた時期で、匠さんは……あなたとのことを悩んでいました」
「……ということは、私たちが別れる前に出会ってるわけね。私のことはどの程度知ってるのかしら?」

 二葉は首を横に振る。

「ほとんど知りません。ただ夫婦仲が上手くいっていないと言われて、関係を持ってしまった……そう言ってました」

 真梨子は黙ったまま、紅茶のカップに手をかける。そのまま口元に持っていくと、ゆっくりと口に含む。

「でもそこまで話しているんでしょ。それなら匠が私に別れを切り出したのは、もしかしたらあなたのせいかもしれないわね」

 そう言った後、真梨子は二葉を睨みつける。

「あの子に何を言ったの? どんな風にそそのかしたの?」
「そ、そんなことしてません! どうしてそういう考えになるんですか⁈ あなたには夫がいて、それなのに教え子だった彼に関係を迫ったんですよね……。匠さんは高校時代、あなたのことを本当に好きだったんです! そんな優しい彼が……あなたを断れるはずがない……!」
「ちょっと待ちなさい。それだとまるで私が強要したみたいじゃない」
「……違うんですか?」
「当たり前でしょ。匠は私が誘ったら喜んでいたわ。あの子だって本心は私を自分のものにしたかったのよ」

 真梨子の有無を言わさない語り口に、二葉は何も言い返せなくなってしまう。そもそも、匠の気持ちの全てを聞いたわけでなかった。
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