客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
もしかしたらこの人の言い分が合っているのかもしれない。そう思うと急に自信がなくなる。
私がしようとしていることは、匠さんにとって正しいことなんだろうか……手が震え出す。
「あなたたちが六年前に何を話したかは知らないけど、私は夫と離婚する気はないし、手に入らない私の代わりにあなたに手を出したんじゃないかしら? かわいそうなお嬢さん」
真梨子は二葉は見下すようにほくそ笑むと、ソファの背もたれに寄りかかる。
二葉は拳をぎゅっと握りしめて下を向いた。
「……確かにそうかもしれません。私はあなたの代わりかもしれない」
「そうね」
「……彼と出会った時に、私は彼に自分の気持ちを大事にして、望む未来を選んでって言ったんです。その気持ちは今も変わらない。もし匠さんがあなたを選べば私は身を引きます。でもそうじゃないなら私は彼を守りたい。教えてください。あなたにとって匠さんはどういう存在なんですか?」
二葉の言葉を聞いて、真梨子は遠くを見つめる。
「私を愛してくる人。愛をくれる人。恋い焦がれる目も、悲しそうな顔も、私を満足させてくれるの」
この人は何を言っているの? 二葉は絶句した。
「……それって自分が満足するためだけの人間ってこと?」
「でも匠だってそれを望むんじゃないかしら? 私の前から姿を消したのだってそういうことでしょ?」
「……もし彼がそれを望まないと言ったら?」
「……あなた、もしかして自分が愛されてると思ってる?」
「……思ってます。彼が何度も愛してると言ってくれた言葉を信じるだけです」
真梨子は鼻で笑う。二葉は息苦しくなる胸をぎゅっと掴む。
「はっ! お子ちゃまの恋愛ね。馬鹿馬鹿しい。いつまで夢見てるわけ?」
どうしよう……泣きそう……そう思った瞬間、二葉の前に誰かが立ちはだかる。
「夢なんかじゃない。俺の本心だよ」
驚いて顔を上げると、二葉の目の前に息を切らした匠が立っていた。