客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 二葉の心に安堵が広がる。ホッとして涙が溢れた。

 だが途端に不安に襲われる。もし匠さんがあの人を庇ったらどうしよう……いや、そうなったら身を引くって宣言したばかりじゃない。

 匠は真梨子から視線を外すと、二葉の前に膝をつき、頭をそっと撫でる。ポロポロと泣き出した二葉を優しく抱きしめた。

「巻き込んでごめんね……」

 二葉は頭を何度も横に振るが、匠の胸に顔を埋めたまま上げることができない。それほどまでに不安だったことに、彼の腕の中で気が付いた。

 匠は二葉を抱きしめたまま、真梨子を冷たい目で見る。

「……どういうことですか?」
「あなたが電話に出ないからじゃない」
「そもそも、どうしてあなたが俺の番号を知ってるかも不思議だった」
「私にはあなた以外にも連絡を取り合ってる教え子がいるのよ」

 なるほど。同級生の誰かから俺の帰国と連絡先の情報が漏れたのか。二葉のことも、きっとそこから伝わったんだろう。

「だとしても、あなたとはもう会わないと言ったはずです」
「嘘よ。本当は会いたかったくせに。別れる時に強がってるのがわかった。だから少し時間を置こうと思ったの」

 強がってるか……そう思われていたことに匠は驚いた。俺は自分から別れを切り出すのはあの日が初めてだから、内心怖くて仕方なかったんだ。

「先生にどう見えたかはわからない。でも俺はあの時にはもう気持ちはなくなってたんだ。でもずっと言えなかった。だってあなたはいつも俺を脅すようなことばかり言うから……」

 先生を抱かなければならない……そんな風に思い始めていた。

「でもそんな時に二葉と出会って……他愛のないことが楽しくて、一緒にいると無理しなくて……この時間がずっと続けばいいと思ったんだ。ずっと一緒にいたいなんて……先生には感じたことのない感情を、二葉は俺に教えてくれた……」

 匠の腕の力が強くなる。二葉は彼の背中に手を回し、同じように抱きしめた。
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