客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 明日は時間をずらして出勤するため、二人は早めに布団に入った。

 向かい合い、匠の腕に抱かれたまま二葉はそっと目を閉じたが、なかなか寝付けない。

「匠さん……寝てる……?」
「まだ。寝付けない?」
「うん……」

 頭の上から響く彼の声が、二葉の耳に優しく響く。

「あの人のこと……聞いてもいい? それとも話したくない?」
「あまりいい気はしないけどね……二葉が知りたいならいいよ。むしろ嫌じゃないの?」
「嫌……かも。でも知っておきたい気もする」
「わかった。何から話す?」

 匠はため息をつくと、二葉の髪を撫で始める。

「そうだな……どんな先生だった?」
「数学の先生で、すごくはっきりした物言いだから、苦手な生徒が多かったかな。俺はそのさっぱりした感じが好きだったけど」

 確かにはっきりした口調だった。こちらに有無を言わせない空気感は、二葉が生徒だったとしても苦手な先生だったと思う。

「旦那さんと上手くいってないって言ってたけど、まだ別れていないみたいだよね。今日の会話でそれを感じた……」
「そうだね……あの頃も仲は良いって言ってたんだ。だけど体の関係が……よく言うレスってやつだったみたい。先生は子どもが欲しかったのに、旦那さんには性欲も、子どもが欲しいっていう気持ちも薄くて、それが唯一の不満だって言ってた……。だから先生は性欲を満たすために俺と関係を持ったんだ……」

 愛のない体だけの関係。でも匠さんは愛の言葉を言わされたと言った。しかも彼女は匠さんから愛されてるとも言っていた。

 でもなんだろう……この違和感は……。湧き上がる感情に拍車をかけるように思い出されるのは、彼女の辛そうな表情。あれは何を意味していたのだろう。
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