離れた距離が近づける想い
アパートに着いた私は、玄関にキャリーバッグを置くと、荷ほどきをすることもなく、そのままその足で慎也のアパートへと向かった。

徒歩10分。

炎天下30度を超える気温の中、慎也に会いたい一心で歩いていく。

ピンポン……

玄関のチャイムを鳴らすけれど、反応はない。

バイト?

出かけてるのかな?

私は、慎也にメッセージを送る。

『久しぶり!
 慎也、今、何してる?』

返事はない。

まさか、デート中!?

と思っていたら、しばらくして返信が来た。

『ナイショ』

何それ!?

言えないところへ行ってるの?

それでも、私は慎也の部屋の前から動くことができない。

慎也に会いたい。

ただ、それだけのために。

それから、1時間ほどして、母から電話があった。

「里穂、さっき……っていっても、もう2時間近く前かな? あなたを訪ねて、お友達が来たわよ」

えっ?

「誰?」

今日は、別に誰とも約束なんてしてない。

藤井 慎也(ふじい しんや)くんって、大学のお友達だって言ってたわ。なんでも、夏休みだから、車で全国を旅行してるんだって」

そんなの聞いてない。

全国を旅?

だって、4日前にみんなと海で遊んでたじゃない。

少なくとも、その時には旅行はしてなかったってことよね?

「それで?」

私がいなくて、慎也くんはどうしたんだろう?

「里穂は、今日、大学に戻りましたって言ったらね、驚いた顔はしたけど、近くまで来たから、年賀状の住所を頼りに寄っただけですって言って帰ってったわよ」

確かに、年賀状は実家から出した。

でも、年賀状を持って旅行?

そんなの聞いたことない。

「分かった。大学で会ったら、謝っとくよ」

こんなことなら、急いで戻って来ないで、実家にいればよかった。

私は、母からの電話を切り、スマホをバッグにしまう。

< 6 / 9 >

この作品をシェア

pagetop