だから今度は、私がきみを救う番



「……お母さんね、好きな人が出来たの」



予想外の答えに、どくりと心臓が跳ねた。

心の奥がそわそわして、ばくばくするのを感じる。



「出張でこっちに来てて、怪我をして入院してた患者さんでね」



麦茶の氷が、もう一度カランと音を立てた。



「その人のことが好きになって、その人もお母さんのことが好きになった。だから仙台に行ったの」



お母さんのこんな表情を、初めて見た。

その顔はまるで恋する乙女だ。

私は、『母親』であるお母さんの顔しか知らない。

こんな風に頬を染めてうっとりとするお母さんは、まるで知らない女の人のようだ。



『好きな男が出来たら、追いかけるんやぞ』



おばあちゃんが呆けて言っていた言葉を思い出す。

お母さんは、好きな人が出来たからその人を追いかけたってこと?

それって……。



「お母さんは、男の人を選んで私たちを捨てたってこと?」


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