だから今度は、私がきみを救う番
◇
午後の授業中、原くんはずっと起きていた。
四六時中寝ている彼が起きているなんて、本当に珍しいことなんだけど。
それよりも私は、帰りの約束が気になってしょうがなかった。
「原くん、今日号令してみる?」
六時間目の終わり、山中先生が彼に声をかけた。
原くんは髪をかきあげると、
「えー、しょうがねえな」と子どものように答えた。
いつも、『おう』とか『っす』とかしか言わない原くんの、貴重な受け答えシーン。
先生がびっくりした顔をしていたけど、すぐに冷静になって彼に終わりの号令をお願いした。
「きりーつ」
原くんの低い声が、教室いっぱいに響く。
私が立ち上がると、原くんはさらに大きな声で「れいっ」と言った。
六時間目が終わったら、二年一組での終礼だ。
つまりそのあと、一緒に帰る放課後が待っている。
そう思うだけで、心臓がばくばくと音を立てて、空だって飛べそうな気持ちになってしまう。