だから今度は、私がきみを救う番
いっしょに帰ろう
夏のはじまりの匂いがする。
湿気を纏った風が吹いて、私の黒髪を揺らした。
けれども今は、髪の毛を整える術がない。というより、手がない。
左手にはカバン、右手は原くんの手としっかり繋がれているからだ。
「高屋んち、こっちだよな?」
そう言って笑う原くんは、やっぱりいつもの原くんじゃなくって、
一年生の時の彼に近い。
大きな川沿いに続く土手道を、肩を並べて歩く。
「合ってるけど、原くんちはこっちじゃないよね?」
原くんとは小学校が違ったので、住んでいる地区も遠いはずだった。
いつも私は表門から帰るけど、確か原くんは裏門から帰っていたはずだ。
しかし彼は今、私と同じ方向にむかって歩いている。
「家まで送るのが彼氏のつとめでしょう?」
「ありがとう」
お礼を言うだけでいっぱいいっぱいだった。
汗で手がべたついていないか、気になってしょうがない。
体温が上昇していく。
「な、寄り道して帰ろっか?」
「へ?」
突然降ってきた声に、間抜けな声で返事をしてしまう。
見上げると、私のニ十センチくらい上に原くんの顔があって、優しい笑みでこちらを見ている。
けれどもどこか切ない表情をしているような気がして、胸がざわついた。
「どうして?」
「高屋が、帰りたくないって顔してたから」