だから今度は、私がきみを救う番
私の言葉を聞いた原くんは、私の服の裾をぎゅっと握って、小さな声で言った。



「今すぐ、行きたい」



時計は、午後三時。

原くんの退院は明日。

待てばいい、それだけの話なのに。



私たちの中にある選択肢は、ひとつしかなかった。



空は快晴、九月の風はぬるい。

夏の名残がまだ、ちゃんとある。

私たちの夏は終わっていない。

だから。



「行こう!」



ふたり手を繋いだら、どこにでも行けそうな気がした。

私たちはただ笑い合って、病室を抜け出す。

あとで一緒に謝るからさ。

ねえ今は、ふたりでいよう。



怖いものなんて何もなかった。

私たちは夏を終わらせるために、ただ走った。
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