だから今度は、私がきみを救う番
『原』と書かれた表札の下、ポストのところには家族全員の名前が書かれてある。
男の人の名前がふたつと、女の人の名前がふたつ、それから一番最後に原くんの名前があった。
五人家族なんだろうか。
原くんが、玄関の引き戸に手をかける。
鍵が閉まっているようで、引き戸はガタンと音を立てて止まった。
「ばーちゃん、いねーのかよ」
原くんは玄関を開けずに、家の脇に止めてある自転車の方へと歩いていった。
自転車の鍵はささったまんまだ。
うちの中学の校章のシールが貼られた、シルバーのママチャリ。
原くんは自転車のスタンドを上げると、ちょいちょいと手招きをした。
「おいで」
後ろの荷台を指されて、乗るように促される。
スカートを巻き込まないように束ねてから、恐る恐る荷台に座った。
「よっしゃ、高屋と二人乗り!」
原くんがサドルに腰をおろして、ペダルをゆっくりとこぎはじめる。
車輪が回転しはじめて、私たちは風に乗った。
「しっかりつかまってて」
「……うん」
一瞬腕を引っ張られて、腰の方へと誘導される。
私は体重いっぱいを原くんに預けて、両手で彼の腰に抱きついた。
固くて骨っぽい、男の子の身体。
爽やかないい匂いがする。
香水か何か、付けてるのかな。
こんなに密着するのなら、次は私も香水をつけてこよう。
そう思った。