「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
プロローグ
「お忙しいところすみません。佐藤翔太様でお間違いないでしょうか?」
車椅子に座っていた老人が、こっちを見て首をかしげる。驚くのは当然だ。一切面識もない若い娘がいきなり自分の名前を正確に呼んだのだから。
私は素早くバッグから名刺を出し、老人の手に握らせた。上下で真っ黒のスーツを着ているこの娘は一体何者なのか、ますます老人の顔が疑問に染まる。
「嬢ちゃんは…誰じゃ?なぜワシを知っている?」
「あ、挨拶が遅れました。私、(株)FFAの営業担当、綾月利映と申します。早速ですが…」
さあ、いつもこの瞬間が大事なのだ。プロらしくはっきり言って、今日も実績を上げよう!そう張り切った私は、明るい笑顔でこう言った。
「ー私のために、死んでください!」
ー綾月利映。おそらく23歳くらいの自称キャリアーウーマン。
そして私は今、この老人の「死神」になるため、絶賛営業中である。
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