「私の為に、死んでくれませんか？」 ~君が私にキスしない理由~

最初から噛み合わない会話を続けているとは思っていたけど、ますます訳が分からなくなった。いくらこんなことを言われても。答えはもう決まっている。私はクビを横に強く振った。


「いいえ、お断りします」

「どうして？」

「あなー社長も仰ったように、私が記憶を失ったのはなにか意味があると思います。それは自分自身が探さないと意味がないと思うからです。助けてあげたいという気持ちは嬉しいです。でも、お断りします。私はきちんと実績を出して、ルール通り閻魔大王にお願いします」


きっと望んでいない答えだったんだろうけど、これが私の素直な気持ちだった。社長は私の答えを聞いて、眉間にシワを寄せる。その表情の変化が全く気にならない！…ことはないけど…。私は落ち着いて、彼が何か言うのを待った。

しばらくして、彼が体を起こした。そしてテーブル越しに自分の顔を私の方へ近づけてくる。そして私の手を強く握り、低い声で囁いた。


「なら、強制的に言うことを聞いてもらおう」

「…？」

「今すぐここで君を犯して、この会社の全員にそのやらしい姿を生中継してやる。そうしたら君は、仕事を続けたくても続けられなくなるだろう。その後は部屋に監禁して、永遠に出られなくしてやる」

「はあ？」

「さあ、選択しろ。私の恋人になるか、それとも今すぐ私に犯されるか。選択肢は２つだ」


最初唖然としてただ話を聞いていた私は、どんどん不愉快な感情が溜まってくるのを感じた。恋人？犯す？言っていることも、行動も、何もかもがめちゃくちゃ過ぎて、訳が分からない。私は彼の手を思いっきり振り払い、席からぱっと立ち上がった。その勢いでテーブルの上のコップが倒れ、騒がしい音を立てたが、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。ただ、ただムカついて、今すぐ叫ばないと頭がパンクしそうだった。


「無礼にも程があるでしょ！人に恋人になって欲しいと言うときは、先に相手を尊重することから始めろこの無礼者！」


叫び声は、広い応接室に響く。そのまま私は逃げるように走ってそこを出た。長い廊下を走り、エレベーターに乗り、叩くようにボタンを押す。急いで自分の席に戻った後、やっと気持ちを落ち着かせることができた。


（信じられない、あんな人が私の上司なんて…！！あんなやつと寝てたなんて！！）


もうこれで本当にクビなるかも知れない。願いが叶うどころか、もう早速レーテーの川を無理やり渡ることになるんだろうか。でも、あんな傲慢で自分勝手なやつの恋人なんか、絶対無理、絶対に！どうして顔がイケてるやつはみんな自意識過剰なのかしら！！


「ああ、もう！なんでこうも難しいんだよ、何もかも！」


私は大きな声を出し、イカれた人のように机に頭をゴンゴンぶつけた。