「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「…」
「以前も言ったはずだ。この仕事は決して楽しい仕事ではない。とても危険で、残酷で、人間のあらゆる汚い部分が全部分かるようになり、願いを叶える前に精神が崩壊して諦めてしまう人も多い。だから、もういい加減決めた方がいい。ーさて、どうするんだ?辞めるのか?辞めないのか?」
私が必ず「辞める」という選択肢を選ぶと確信したかのように、社長は返事を急かした。どうしても私がこの仕事を自ら諦めてくれることを望んでいるらしい。私もここにたどり着くまでに何度も悩んだ。そして正直な話をすると、「色々と面倒だから辞めた方が楽かも」とまで思った。記憶がないので、これを良い口実にクルーズに乗れるかも…?とも思った。
「私は…」
666人の魂を案内するまで、どれくらい辛いことが待っているか、想像すらできない。そしてその辛い仕事を終えたどり着いた自分の過去に、何が隠れているか、実際に向き合うのもどんどん怖くなってきた。様々な感情が混ざり、何が正しい選択なのか、ずっと悩んでいた。
ーしかし、私は気づいてしまった。
もう後戻りはできない。既に、私はどうしようもないほどあなたを知りたいと思っているから。
「私は…この『死神』の仕事を、続けたいと思います」
私の返事に、社長はしばらく何も言わなかった。私達の間に流れる程よい風が少し弱くなった頃、社長は長い溜息をついた。そして一人でつぶやくかのような声で訊いた。
「…どうして?」
「…」
「これだけ止めたんだ。空気を読んで、『辞める』と言うべきではないのか?」
まるで子供がお母さんに「これだけ言ったのにおもちゃ買ってくれないの」と言っているようで、私は思わず少し笑ってしまった。でも、すぐ真面目に答えた。
まるで子供がお母さんに「これだけ言ったのにおもちゃ買ってくれないの」と言っているようで、私は思わず少し笑ってしまった。でも、すぐ真面目に答えた。
「悩みました。とても真剣に。それでも、やはり、答えは一つです。この仕事、続けたいです」
「…」
「社長が私に言ってくれたこと、十分に理解しています。まだ私は甘いのかもしれません。それでも…『死神』として、私にできることをしたい…そう思いました」
人の死には様々な形があって、それを平和に受け入れる人はごく一部だろう。様々な混乱や、恐れ、悲しみ…そういう感情を少しでも癒してあげたい。それで人の最期の旅が少しでも楽になるなら、私が仕事をする、十分な意味があるーそう思えた。
「最初は、私の過去を知りたい、そのためなら何でもする、そう思っていました。今でもその願いは変わっていません。きっとこのさきずっと、私は自分の過去を知りたいと、強く強く思うのでしょう。しかし、もうそれだけではありません。私は、人の最期の案内者であり、優しい友になりたいです。…こう思わせたのは、社長。あなたです」
私の言葉が理解できないのか、社長が驚いた顔でこっちを見る。その姿がちょっと可愛いと思いつつ、私は言葉を続けた。
「あなたが、少年に書かせた手紙」
「…」
「少なくとも、あなたは少年がお母さんを大切に思う気持ちを退けるような真似はしませんでした。…だから、私も少しは人々の慰めになりたいと思いました。あなたが、そうしてくれたように」
「以前も言ったはずだ。この仕事は決して楽しい仕事ではない。とても危険で、残酷で、人間のあらゆる汚い部分が全部分かるようになり、願いを叶える前に精神が崩壊して諦めてしまう人も多い。だから、もういい加減決めた方がいい。ーさて、どうするんだ?辞めるのか?辞めないのか?」
私が必ず「辞める」という選択肢を選ぶと確信したかのように、社長は返事を急かした。どうしても私がこの仕事を自ら諦めてくれることを望んでいるらしい。私もここにたどり着くまでに何度も悩んだ。そして正直な話をすると、「色々と面倒だから辞めた方が楽かも」とまで思った。記憶がないので、これを良い口実にクルーズに乗れるかも…?とも思った。
「私は…」
666人の魂を案内するまで、どれくらい辛いことが待っているか、想像すらできない。そしてその辛い仕事を終えたどり着いた自分の過去に、何が隠れているか、実際に向き合うのもどんどん怖くなってきた。様々な感情が混ざり、何が正しい選択なのか、ずっと悩んでいた。
ーしかし、私は気づいてしまった。
もう後戻りはできない。既に、私はどうしようもないほどあなたを知りたいと思っているから。
「私は…この『死神』の仕事を、続けたいと思います」
私の返事に、社長はしばらく何も言わなかった。私達の間に流れる程よい風が少し弱くなった頃、社長は長い溜息をついた。そして一人でつぶやくかのような声で訊いた。
「…どうして?」
「…」
「これだけ止めたんだ。空気を読んで、『辞める』と言うべきではないのか?」
まるで子供がお母さんに「これだけ言ったのにおもちゃ買ってくれないの」と言っているようで、私は思わず少し笑ってしまった。でも、すぐ真面目に答えた。
まるで子供がお母さんに「これだけ言ったのにおもちゃ買ってくれないの」と言っているようで、私は思わず少し笑ってしまった。でも、すぐ真面目に答えた。
「悩みました。とても真剣に。それでも、やはり、答えは一つです。この仕事、続けたいです」
「…」
「社長が私に言ってくれたこと、十分に理解しています。まだ私は甘いのかもしれません。それでも…『死神』として、私にできることをしたい…そう思いました」
人の死には様々な形があって、それを平和に受け入れる人はごく一部だろう。様々な混乱や、恐れ、悲しみ…そういう感情を少しでも癒してあげたい。それで人の最期の旅が少しでも楽になるなら、私が仕事をする、十分な意味があるーそう思えた。
「最初は、私の過去を知りたい、そのためなら何でもする、そう思っていました。今でもその願いは変わっていません。きっとこのさきずっと、私は自分の過去を知りたいと、強く強く思うのでしょう。しかし、もうそれだけではありません。私は、人の最期の案内者であり、優しい友になりたいです。…こう思わせたのは、社長。あなたです」
私の言葉が理解できないのか、社長が驚いた顔でこっちを見る。その姿がちょっと可愛いと思いつつ、私は言葉を続けた。
「あなたが、少年に書かせた手紙」
「…」
「少なくとも、あなたは少年がお母さんを大切に思う気持ちを退けるような真似はしませんでした。…だから、私も少しは人々の慰めになりたいと思いました。あなたが、そうしてくれたように」