「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
話を終えた私は、深呼吸をして相手の反応を待った。こう言ったって、向こうがそれでも私を首にするならどうしようもないことだから、受け入れるしか…ない。こう思う私は何気ないふりをしていても、緊張で喉がどんどん乾くのを感じた。

やがてじっと私を見ていた社長が、私から目を離し、視線を又例の悪党たちに戻した。未だに楽しく騒いでいる奴らには、反省や罪悪感の欠片も見当たらない。一瞬忘れていた悔しい感情がもぞもぞと上がって来て、私は歯を食いしばった。

「…さっきも言った通りに、死者は決して生きている人間に関わってはいけない。その掟を破る者には必ず罰が与えられる。だから、今あいつらに一発食らわせることは無理だ」

突然出された別の話題に、私はついていくことができず、社長の横顔を見ていた。社長は私に視線をくれないまま、自分の腕時計で時間を確認した。


「ーだが、死者なら、話は別だ」

「はい?それはどういう…」

「ーおい!どういうことっすか!話が違うじゃないっすか!」


社長の言葉が何かの合図でもなったかのように、いきなり下から大きい声が聞こえた。慌てて男たちを見ると、背が小さい男が叫んだのが分かった。さっきまでは兄貴兄貴と言いながらヘコヘコしていた態度はどこに行ってしまったのか、男はイカれた人のように大声を出した。


「たかが100万のためにあんたに付いてきたと思うのかよ?ふざけんな!俺がどんだけ苦労したのか分かってるんだろ!」


どうやら、少年を殺すことを手助けした報酬で揉めているらしい。今度は別の男が、席から立ち上がり、自分が持っていたビール缶を相手に投げる。こっちもこっちで相当キレているように見えた。


どうやら、少年を殺すことを手助けした報酬で揉めているらしい。今度は別の男が、席から立ち上がり、自分が持っていたビール缶を相手に投げる。こっちもこっちで相当キレているように見えた。


「調子に乗るな、クソが!お前のようなクズ拾って仕事させてやったんだから100万でもありがたく受け取れ!」

「お前、車一台くらい買えるカネは出すって言っただろ!どうせあの女、保険金出るからそれでも貰っとけ!」

「はあ?100万くらいだったら車一台買えるだろ、十分。職業ひものくせにどんだけいい車買おうとしてるんだ?てめえのような人間は徒歩で十分だ」

「誰がクソ野郎だ、俺が通報したらどうなるかしらねーのかよ?」


どんどんエスカレートしていく険しい空気に、私はただ口を開けて見守るしかなかった。それに比べ、隣の社長の顔はとても平穏で、なんともないように時計と男たちを交互に見ている。まさか、まさか…嫌な予感で頭がいっぱいになる中、男たちの闘いは続いた。もっと激しく、もっと危険な方向へ。


「…は、てめぇ、それを脅しだと思って言ってるのか?」

背の小さい男の顔に嘲笑が浮かぶ。笑っていても、相手の脅しに相当ブチ切れたらしく、ツッと舌打ちをした男が眉間にシワを寄せながら言った。


「これだから頭が悪いやつは。俺を警察に通報したら、お前が無事でいられると思うか?」

「……」

「調子に乗るな。誰のおかげで今こうして無事でいられると思うんだ?それに、お前がこんな裏切りをすることもあろうかと思って、もうそれなりの対策はしている。俺を侮るな、クソが。100万円食って消えるか、一生臭い飯を食うか、さすがに頭の悪いてめえでもどっちが正しい判断か分かるだろうよ」


言いたい言葉を全部ぶちまけた男は、最後に相手の顔へ唾を吐いた。思いっきり侮辱された相手の反応は全く気にせず、そのまま自分の車のドアを開けた。男がそのまま車に体を乗せ、扉を閉めようとした瞬間ー。


「う、うわあああああーーー!!」
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