謎解きキッチンカー
お兄さんはおどけた調子で言うと、温まった鉄板の上に生地を流した。


それを専用の道具を使って丁寧に広げていく。


それはまるでマジックを見ているようで思わず「わぁ」と声を上げた。



薄く延ばされた生地はすぐにキツネ色に焼けてきて、いい匂いがしてくる。


その間にお兄さんは足元にある小さな冷蔵庫からイチゴを取り出して、小さなまな板の上でカットした。


どれもこれもが家のキッチンのミニチュアに見えて香織はワクワクした気分になる。


お兄さんはまるで、小さなお母さんみたいだ。


「はい、できたよ」


今度はちゃんとお金を払って受け取った。けれど、すぐに帰る気にはなれなかった。


 お客さんが少なくて商品が動かないからか、まわりから漂ってくるいい香りは少ない。


食べ物の匂いよりも今は雨の匂いのほうが強かった。
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