謎解きキッチンカー
藤田さんとの約束時間まで後二時間近くあったけれど、先に行って待っているつもりだった。


靴を履き、玄関を開けてさぁ出発! と、思ったときだった。


「ちょっと待ちなさい」


後方から低い声が聞こえてきて香織は立ち止まった。


母親がこんな声を出すときはたいていよくないときだ。


香織の体は自然とこわばり、足が前に出なくなってしまった。


このまま一気に約束場所の広場まで行けたらいいのに、衰えてしまった勢いは元には戻らない。

香織は恐る恐る振り向いた。


玄関先に立つ母親は腕組みをして目を吊り上げている。


明らかに怒っている様子だけれど、香織は怒られるようなことをした覚えはなかった。


……いや、ひとつだけあった。
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