謎解きキッチンカー
包丁を手に取り、心臓が止まってしまいそうになりながら藤田さんへ聞く。


藤田さんは生地を作る手を止めないまま「そうだよ」と、うなづいた。


「嘘、私、本当にこんなことしていいの?」


興奮してうまく言葉が繋がらない。


普段母親から『まだ早い』と言って包丁を握らせてもらえない香織だ。


自分専用の包丁があること事態が夢のような出来事だった。


「社会見学だからね、少しはなにかしてもいいんじゃない?」


生地の準備終えた藤田さんが額に滲んだ汗をぬぐう。


気温はどんどん上昇していて、海に来るお客さんも多そうだ。


他のキッチンカーも着々と準備を進める中、香織は思いっきり頭を下げた。


「ありがとうございます!」


そして、まだ誰もいない砂浜に元気な声が響いたのだった。
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