謎解きキッチンカー
遠くの水平線に影だけ見えている船。


香織はぼんやりとその影を見つめた。


「じゃあ、僕のサンダルは海の中なの?」


「そう……だね」


あの船くらい遠くに行ってしまっていたら、もう取りに行くことはできないかもしれない。


岬くんへ視線を向けると唇を引き結んで泣くのを我慢しているのがわかった。


そんな顔を見たらどうにかしてあげたいと思ってしまう。


だけど着替えも持ってきていないし、海の中に入ることはできない。


藤田さんからも気をつけてと言われているし。


どうしようかと考えあぐねていると、岬くんが香織の手をそっと離した。


「僕大丈夫だよ。お化けの正体がわかったし、サンダルは盗まれたんじゃなかったから、大丈夫」


『大丈夫』という言葉を二度も使って香織を安心させてくれようとしているのがわかった。


胸の奥がさっきとは違った痛みを伴う。
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