死神は死にたがり少女に恋をする
彼女の言葉を聞いているだけだというのに、なぜだが俺まで呼吸が苦しくなり、それを誤魔化すように、彼女に言葉を投げかける。
「今は俺がいるだろう」
震えていた彼女の肩が止まった。彼女が反応したことをいいことに、俺は畳み掛けるように言葉を紡いだ。
「そもそも感情を持ち合わせていないから、お前が怖がるような“拒否する”だとか、“面倒くさい”だとかになることは起こり得ないし、契約をした以上俺はお前を無碍に扱うことはしない。つか、お前の感情を吸収してんだから、お前の気持ちを否定することはねぇよ。俺相手にそんな気ぃ使うな」
そう言うと、彼女はゆっくりと顔をあげ、俺を見上げた。疲れ切った表情をしてはいたものの、その目から流れる涙は止まっているようだった。
俺は、なぜだか彼女の笑顔を見たくなって、続けて言う。
「――それに、言っただろう、耐えきれない感情は俺が食らってやるって。一人で耐えるってことは、もうしなくていい」
しかしその言葉を聞いた彼女は、笑うどころかむしろ大粒の涙を零し始めた。
彼女の笑顔を見るにはどうしたらいいか、を俺なりに模索し、「その感情、食らったほうがいいか?」と聞くものの、彼女は首を横に振る。
そしてそんな彼女の手は、俺の服の袖を掴んで弱々しく引き寄せた。
「抱きしめて。何も言わなくていいから、ただ、抱きしめるだけでいいから……」
消え入りそうな声で、彼女はそう切なげに求める。
言われるがままに彼女を抱きしめると、彼女はずっと溜め込んでいたものが堰を切ったかのように、泣き叫んだ。
背中に回された彼女の手が俺の服を強く握りしめる。これ以上ないくらい感情をあらわにしているというのに、それでも堪えきれないものがあるのかもしれない。
多少は俺が食らったとはいえ、やはり彼女の抱えるものは大きすぎる。
ほんの僅かしか食らっていないはずなのに、締め付けられるような痛みと共に呼吸が乱れた。俺が痛みを感じることで、彼女の痛みは多少なりとも緩和されているのだろうか――。
ふとその時、泣いている子どもの頭を親が撫でると、徐々に泣き止んでいく子どもの姿を思い出した。俺はそれを真似するように、彼女の頭を撫でる。
いざやってみると、叩いているようにも感じられ、力加減がよくわからなかった。せめて彼女が痛みを感じないようにと、そっと触れるようにと心がける。
彼女の髪は、触れる手を無意識に滑らせてしまうほど触り心地がよかった。
風に遊ばれ乱れた彼女の髪を整えるべく手櫛でとくと、指通りがよく簡単に元に戻る。近くで見るとやはり茶色がかっていて、夕日のせいではなかったのだと知った。