死神は死にたがり少女に恋をする
――余計なことまで思い出してしまい、わたしは大きく溜息をついた。
その時目に入ったのは、勉強机の棚に乗っていた小さな箱。
小さいというのに箱の半分を占めているのは、大き目の文字で書かれた注意書き。“5”という数字と共に洒落た書体の英語が書かれている。
最近吸い始めたそれを、わたしは憎らし気に見つめた。
浮かんでくる数々の記憶に胸を締め付けられ、息がしづらくなる。
唇を噛み、わたしは箱とそのすぐ横にあったライター、そして一見ライターにも見える後始末用のそれを鷲掴むように取ってベランダに出た。
――空は完全に黒となって、散りばめられた星がぼんやり浮かぶ月を惹き立たせている。
だいぶ肌寒くなった空気を吸い込んで吐き出せば、胸の中の淀みが少し緩和されたような気がした。
ベランダの手すりに肘をつき寄りかかる。
箱から一本煙草を取り出して口に咥え、カチッという無機質な音と共に吐き出された火にそれを近づかせた。
無意識に風から火を守るようにしてかざした手に気づき、慣れてしまった自分に思わず嘲笑が浮かぶ。
その時、それまで穏やかに吹いていた風が一際強く吹くと同時。
「お前、煙草吸うんだな」
低く落ち着いた調子の声音が聞こえた。
わたしは驚きに体をビクつかせ咄嗟に聞こえたほうを振り向く。
そこには人間の時の姿とは異なる、死神の姿の彼が壁に背を預けるようにして立っていた。
黒のローブに身を包み肩下まである黒髪を風に靡かせる彼は、全身真っ黒なせいで夜の闇に紛れ、注意深く見なければ気づけないほどだった。