森の泉
少女は彼に興味を持った。
同時に、自分と真逆の彼がどんな生活を送っているのかがとても気になり、話がしてみたくなった。

少女は近くの草の上に座り込む。

「私、名前はエル。家族で旅をして、お客さんに小さなショーを見てもらってお金をもらっているの。私の家族はいっぱいいるわ。五頭の馬とハトが三十羽。一番えらいお父さんと、とってもキレイなお母さん、血がつながらないけど、不思議な術を持った双子のお兄さんとかね。あなたは?」

挨拶を兼ねて自己紹介をし、次は彼の家族のことを聞こうとエルは尋ねるが、彼は少々悲しげに首を振る。

「たぶん僕に家族はいないよ。見たことがないんだ。僕を呼ぶ相手も、いない…」

彼の悲しげな様子にエルはすぐに頭を下げた。

「…ごめんなさい、知らなかったの…!それなら私があなたに名前をつけて、あなたを呼べばいいのよ!」

聞いた彼は目を丸くする。
エルはそのまま彼の呼び名を考え続け、そしてポツリとつぶやく。

「そうね…えっと…セイ。」

「セイ?」

彼は首を傾げて聞き返す。

「…そうよ!遠い国の言葉で、『静か』という意味らしいわ。この泉のイメージでつけたの。どう?」

エルの言葉に、彼はニコリと笑った。

「ありがとう…!」

セイはエルに微笑むと、しゃがんで泉の中に手を浸す。
そしてそのままエルに問いかける。

「…ねえエル、この泉は美しいと思う?」

なぜいきなりそう聞いたのか分からない。
しかしエルは疑問に思いながら答える。

「…そうね、とてもキレイだと思うわ!静かで、周りは暗いのにランプの光が当たるとキラキラ光って見えるもの!」
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