帰らないで



ジーっと鞄のファスナーを閉めて



カタコト
と音をたてて華奢なミュールを履く。




ガチャ

パタンと



どこにでもある玄関の開閉音がまだ耳から消えないうちに



コツコツコツコツ



足早にその音は去っていく。





足音が聞こえなくなった頃


俺は決まって体を起こし


窓の外に見える細い道路に
朱音さんの後ろ姿が現れるのを待つ。





部屋はアパートの二階だから

それくらいのタイミングで丁度いい。



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