帰らないで
少し待つと
朱音さんの後ろ姿が現れる。
旦那さんが結婚記念日に買ってくれた
真っ白なマフラーをしっかりと押さえながら
小走りで駅に向かう後ろ姿。
どうしてそんなに走るんだよ。
俺の部屋からホームまでなんて
5分もあれば着くじゃないか。
最終電車は23時12分。
時刻はまだ
22時57分なのに。
朱音さんは
30秒くらいで
俺の視界から消え
駅へ向かう道に曲がっていった。
この部屋にいると
電車の去る音まで聞こえてしまう。
すると俺は
朱音さんのいなくなった部屋で
布団に潜り寝た振りをするんだ。