帰らないで
「髪を茶色くしなよ。きっと似合うのに。」
真っ黒で柔らかいロングヘアーを
朱音さんは照れたように触る。
『似合わないわ。染めたことなんて一度もないの。』
その柔らかい笑顔がすごく好きだ。
あと、柔らかい声も。
その柔らかい声で言っていた
『来週は結婚記念日なの。2回目の。』
と。
もう10ヶ月も前のこと。
そう
俺が無理矢理聞き出した。
朱音さんの鞄から都内のレストランやホテルの載った本が見え隠れしていたから。
俺はわざと前日にバラの花束をプレゼントした。
朱音さんは困ったように笑ってた。