俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
 三年前、アラブ首長国連邦で新種のウィルスが流行り、日本からも現地の手伝いとして、医師と看護師が派遣された。

 お礼奉公中だった一花は半年程、看護師として派遣された。

 ウィルスは猛威をふるい、あっと言う間に全世界に広がった。
全世界がウィルスを恐れ、対策を講じた。
感染症の影響による各国・地域の入国制限措置がかかり、足止めを食らう前に、私たち看護師達も、急遽帰国をしたのだった。


(私にとっては、良いタイミングだったんだけどね…… )


 帰国後、体調不良が続き、時差や疲れだと思っていたら、まさかの妊娠だった。
しかも双子。

 思わず手をお腹に当ててみる。
何度も摩ってみるが、実感が湧かない。

(…… ここにいる、の……? )

 嬉しさと戸惑い、不安、ごじゃまぜな感情が次々に湧いて来た。

 そんな私をよそに、身体はどんどん、母になる。

 つわりが始まり、微熱っぽい。
思い通りに動かない身体に、病院を辞める事も考えたが、お礼奉公中の転職は、学費全額返済。

(……普通に考えて無理でしょ、今より収入減るのに、出費はこれからもっと、増えるんだから…… )

 母子家庭で、二人の赤ちゃんを抱えての生活は、大変なのは分かりきっていた。

 路頭に迷う、冒険をする勇気は、無い。
驚きと喜び、そして親の愛を知らない私が、一人前の親になる。 

「こんな私が、本当に子供達を育てられる……?」

 戸惑いの中、頭をフル回転させる。

「施設では、赤ちゃんもいたから、一通りの事は出来る。小さい子達の面倒も沢山見てきた。」

(……でも…… 父親がいなくて本当に大丈夫? この子を、私と同じ様な目に合わせたくない…… )

 まだ、膨らみのないお腹に、そっと手を当てる。

(この中で育っている、初めての私の家族…… 貴方と会えない未来なんて、私には選択、出来ない……!)


 (……きっと大丈夫、私が貰えなかった分の愛情も、全力で注ぐわ!)

 一人じゃない!
そう思うだけで、強くなれる。

 この子と生きる事が出来るなら、どんな事だって、乗り越えられる。


 大きくなるお腹を抱えて、臨月まで働く私に、ヒソヒソと勝手な憶測が飛び回る。

 だけど、ナースステーション、院内でどんなにバカにされ、噂されても迷わない。



「一緒に幸せになろうね…… 」

 幸福で暖かい想いを、与えてくれた大好きな人との、愛の結晶。

 望んでも望んでも、手に入らなかった家族を、与えてくれた彼には、感謝しかない。


 ただ穏やかに、この幸せが続く事を願っていたのに……。
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