俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
「入らないで下さい!」
思わず力が入り、自分でも驚く程の、大きな声が出てしまった。
(……いくら婚約者でも、リスクを考えたら、通すわけにはいかないわ)
「……貴方、誰に向かって意見してるかわかってるの? 看護師ごときが、この私に意見するなんて…… 」
アイシャは思い通りに行かず、トントンッと、片腕を指で弾く。
(ううっ…… めっちゃ怒ってる…… よね? )
彼女は綺麗な顔を歪め、片眉をあげると、フッと、冷ややかな笑みを私に向けた。
「……いいわ、生意気な看護師一人、移動させるなんて、パパに頼めばなんて事ないもの。 仕事が無くなったら、困るのは貴方じゃないの? まぁ、私には関係ないけどね」
「退きなさい!」
と、進もうとするアイシャの前に、両手を広げて、私は立ち塞がった。
「免疫力が落ちている時に、万が一、他の病気を併発したらどうするですか? 貴方は彼らを、死なせたいんですか?」
当られても、脅されても、看護師として、彼らを守らなきゃ!と、毅然とした態度で答える。
「私が彼らを殺すなんて…… なんて恐ろしい事を言うのよ! 嫌だわ、こんな酷い事を言う看護師に、婚約者を任せておけないわ!」
怖い、怖いとアイシャは両腕を摩って震える。
「マスクもしないで、病室に来るなんて自殺行為です。このウィルスはまだ治療薬もなく、重症化すると亡くなる可能性も、ゼロではないんです。甘くみてはダメです!」
なんと言われようと、看護師として、正確な情報を伝えて、納得してもらうしかないと、もう一度、危険性を伝える。
「ダンッ」
と、一回、怒りを表す様に、片足を床に踏み鳴らすと、
「……もういいわ! 貴方に何を言っても無駄な様だから、二人に会える様、パパにお願いするわ。 我が家はこの病院に、多額の寄付をしているんだから、融通が効くのよ!」
アイシャは眉を寄せ、流暢な日本語で捲し立てると、フンッと、鼻で笑ってその場を離れて行った。