俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
アミールsaid
(熱い、熱い……! )
ドロドロとした熱が放出されずに、身体中を駆け巡る。
頭がガンガンッとして、重苦しい痛みが脳の奥底から湧いてきて、上手く思考が纏まらない。
(俺はどうなっているんだ?)
痛みに逆らえず気を抜けば、あっという間に、仄暗い影が伸びて来て、捕まりそうになる。
(ダメだ、アレに捕まったら持ってかれる)
俺の中の本能的な直感が、逃げろと警告を鳴らす。
起きて、走り出したいのに、上手く意識が保てない。
得体の知れない、黒いモヤモヤが身体中に纏わりつく。
ゾワリッと恐怖を感じて、ガタガタッと身体が震える。
普段、世界中を相手に戦っている石油王と呼ばれるこの俺が、ビビッている。
(情けない……。)
関節という関節全てが、ギシギシッとして、油を差し忘れたブリキの人形のように、上手く身体を動かせない。
「くっ…… ううっ…」
くぐもった声が漏れる。
「苦しいよね、頑張れ、頑張れ」
もう何度、その声を聞いただろう。
(もうダメだ…… )
仄暗い影に、捕まりそうになって諦めかけようとするその瞬間、決まってその声が聞こえて来て、引き戻される。
苦しそうで、哀しみの混じった声色を聞くたびに、心臓が、ギュウウゥゥゥゥッと締め付けられて、切なくなる。
(何がそんなにお前、を哀しませているんだ?)
今すぐに抱きしめて、大丈夫だと、安心させてやりたい衝動にかられ、ギギギッと、軋む身体に力を入れ、無理矢理、手を伸ばす。
暖かい温もりが、髪に、頬に、そして手に落ちる。
「アミールさん、アミールさん」
ギュッっと、力強く握られる暖かい感触を確かめたくて、重たい瞼を震わせ、薄っすら目を開ける。
刹那、俺の目に飛び込んで来たのは、綺麗な漆黒の髪を後ろでギュッッと束ね、目を潤ませ、心配そうに覗き込む女だった。
マスクで、口元は隠されていたが、柔らかい手で、何度も俺の手を優しく撫でる。その行為で、俺の事を心配してくれているのは、一目でわかった。
俺はその暖かい温もりに、包まれると、安心して、また眠りにつく。