俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
トントンッ
「相葉さん、相葉一花さん?」
ドアの向こうから、私を呼ぶ声が響いた。
手を消毒して廊下に出ると、現地スタッフとアイシャ、そして看護師が立っていた。
「御用でしょうか?」
「貴方には、今日からここの担当を外れて貰います」
片言で現地スタッフに告げられる。
「え……? 」
アイシャが、意地悪そうな含み笑いをしている。
(申し送りの時にはそんな連絡なかったわよね?)
「……配置換えと、いう事でしょうか? 」
突然の事に戸惑って、思わず聞き返してしまう。
現地スタッフは私の言葉を無視して、ゴニョゴニョと、隣に居た看護師に現地の言葉で何か伝えると、彼女は頷いて、アイシャを連れて病室の中へ入って行こうとした。
「あ、待って! 」
思わずアイシャの手を掴む。
「痛っ!」
「あっ、も、申し訳ありません!」
慌ててアイシャの手を離す。
「何するのよ! あなた私の仕事知らないのかしら? モデルよ、モデル! この後、撮影があるのよ! 身体に傷が付いたら、いくらの損害が出るかわかってるの?! あなた、賠償金払えるの? 」
吊り目気味の目尻をコレでもか、と吊り上げ、怒りを露わにする。
「この際だから言っておくけど、アミール、カミールの二人に釣り合うのは、私の様な全てを持っているものなよ。 あなたはただの看護師! 身分をよく弁えなさい! 」
アイシャは私を睨みつけると、行くわよ!と、現地看護師と共に、病室へ消えて行った。
(…… モデルさんか……、 凄いなあんなに綺麗で自信があって…… 。 なんでも持っている人って本当にいるんだな……。 私とは大違い。 流石、石油王と言われてる、あの二人の婚約者だけあるわ…… )
フーッと呆れる様な溜息が聞こえ、そちらに目を向け見上げると、現地スタッフが眉間に皺を寄せ、汚い物でも見る様な、冷ややかな視線を、私に向けていたのだ。
(な……に? )
「着いて来なさい」
顎でクイッと指示すると、現地スタッフは踵を返して歩き出した。