俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
あれから、結局アミールとは会うことは出来ずに、数日が慌ただしく過ぎて行った。
急な配置替えの為に、2、3日、繋ぎとして、年配の女性の看護を任されている。
「じゃ、ちょっと花瓶のお水変えてきますね」
花好きな患者さんの為に、水道へ向かう。
ドンッ!!
突然、後ろから背中を押されて、勢いよく廊下に投げ出された。
「キャッ……!」
ガシャーンッ! バシャッ!
「冷たっ…… ! 」
「あーら、ごめんなさい」
見上げると、自身のスラッと伸びた長い手を口元に当て仁王立ちして、冷笑しているアイシャが立っていた。
隔離病棟だと言うのに、どうやって出いりしているのかわからないが、およそこの場にそぐわない格好をしている。
形の良いバストが強調される、ピッタリとした服を着こなして、敵意を剥き出しにしていた。
「ふーん…… しぶといわね。 あなた…… まだこの病棟に居たのね」
「アイシャさん…… 」
花瓶が割れ、水を被って濡れた衣服がどんどん冷えてきて、ブルッと身震いする。
「まあ、自己紹介してないのに、名前を知ってるって事は、彼らから私の事、聞いてるのかしら」
フフンッと、勝ち気な顔で笑う。
「…… 婚約者だとお聞きしました」
アイシャは、吊り目がちなアーモンドアイを大きく見開いて、胸に手をあてた。
「そう、そうなの? 婚約者って聞いたのね。 フフフッ…… どっちから? カミール? それともアミール? もしかして二人からかしら? 」
頬をピンクに染め、キラキラとした笑みを顔一杯に現し、美形な顔を更に輝かせる。
「そうね…… 」
呟いて、トンッと、人差し指を私の額に当てる。
「第一夫人になったら、スペアとして、あなたを第二夫人に置いてあげても良いわよ。 私だって、そんなに心が狭い訳じゃないんだから」
グイッと額を強く押されて、フッと不敵な笑みを浮かべると、ウキウキと軽やかな足取りで、二人の病室へ入って行った。
子供の頃から容赦なく向けられていた、バカにして下げずむ様な態度。
無垢な子供の嫌がらせとは違い、女の嫉妬混ざりのドロドロとした感情を、あからさまにぶつけられて、戸惑いが湧き上がって来た。
(こんな事をしなくても、私なんてなんの魅力もないのにな…… )
割れた花瓶を拾う。
(全てを持っている彼の隣には、自信に満ち溢れた彼女のような人が、相応しいんだな…… )
重く、積み重なるモヤモヤした気持ちを持て余し、落ち着く為に、スゥーッと深く深呼吸をする。
(考えたって仕方ないわ。 ただの看護師の私に出来ることは、患者さんを一緒懸念看護する事だけ)
沈んだ気持ちを切り替え様と、ウン、ウンッと自分を納得させるように、一人頷く。
「?!……っ 」
切れてジワっと血が滲んだ指を、そっと舐める。
「痛いな…… 」