俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました


「おはようございます」

 申し送りが始まる寸前に、滑り込みセーフ。

「相葉さん、あなたはまたっ! 患者さんの前では、余裕を持って対応出来る様、常に五分前行動しなさいって、言ってるでしょ!」

 婦長は片眉目を上げ、スッと目を細めると、神経質そうに眼鏡をクイっと、上げる。

「それに、いくら母子で大変だからってそんなに髪を振り乱して…… 最低限の身だしなみくらい、整えなさい」

「……申し訳ありません」

「子供がいるからって、流石にアレはないよね」
「女捨ててるわ…… 」

 クスクスと蔑みを含んだ声が、小さく聞こえる。

 私は化粧っ気のない顔に、手を当て小さくハァーっと、ため息を吐く。

(だよね…… わかってるんだけど、二人の怪獣相手に手一杯で…… )

 言い訳をして誤魔化す。

(帰りに薬局でリップとアイライナーでも買う? イヤイヤ、化粧品買うお金があったら、双子の好きなボーロが何個買える? )

 どうせ使わず、端子の肥やしになるだけなら勿体ない、とオシャレとはやはり縁遠い。

 我ながら貧乏くさいし、皆んなが噂する通り、女を捨ててると思うが、つい、自分の事は後回しになってしまう。


 いくら薬局で安く買えると言っても、一馬力の母子家庭には、無駄なお金など1円たりともない。

「女としての賞味期限、切れてるなこれ…… 」

 ふふふっ……と、自嘲しつつ、自分に言い聞かせる。

(出かける用事もないし、化粧品なんて要らない、要らない)



 私の育った施設では、欲しい物が手に入らないのは、当たり前の事だった。

(服は、基本、上の子からの、お下がりだった。 皆んな両親が毎月会いに来るから、新しい服買って貰ったって言って、色々回してくれたんだよね。 可愛い服沢山あって、今よりオシャレだった気がするわ)


 一花本人は気が付いていないが、子供達が産まれる前も、産まれてからも、自分の為の贅沢は、直ぐに諦めると言う癖が、抜けない。

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