まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
序章
昔から、少し普通の人間とは違った私。
そんな私に微笑みかけてくれた、彼。
「愛しています、珠緒さん」
「まどか…。私も」
見つめ合って、手を取り合って、そんなふうに愛を交わしたのは、遠い遠い昔。
「珠緒さん!見ましたか!?あちらに今、青色の鳥が…!」
長いまつ毛に縁どられた、切れ長で、けれど子どものようにキラキラと輝く瞳も。
「僕以外の男に、あんなに可愛く微笑みかけないでください…。……ずるい」
照れたりするとすぐに赤く染まる、真っ白で、きめの細かい綺麗な頬も。
「珠緒さん、明日はどこへ行きましょうか」
私の両手をそっと包み込んでくれる温かい手も。
「珠緒さんの全部、僕にください」
時に愛を紡ぎ、時に私の唇に重ねられ、肌の上を滑った、形の良い唇も。
「まどか」
大好きだった。心の底から、愛していた。
――やがて、彼との間に授かった、愛しい子ども。
「まどか、幸せ?」
「君とこの子なしに、今の僕の幸せはないよ」
小さくて、ふわふわした、私たちの大切な大切な宝物。
大事に大事に育んでいこうと、決めていた。
……でも。
幸せな日々にも終わりは来る。
しかもそれは、私のせいだった。
――自分は死に。
――彼も亡くなり。
前の人生は終わりを告げた。
そして、今世。
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった私、白峰 珠緒は。
「一目見た時から、あなたの事が嫌いです」
先ほど再会したばかりの目の前にいる彼、近衛 円に。
「私の視界に入らないでください」
「…………………は?」
嫌われようと心に決めた。
大好きな大好きな彼を、守るために。