まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
6
「私は夢喰いって一族の末裔なのよ」
「……………夢喰い」
彼女を室内へと案内し、テーブルを挟んで、向かい合う。
傍らではまどかが3人分の麦茶を並べていた。
…………ん?あれ、ここ、私の家だよね。
初めてこの家に来たというのに手際よく、さらには給仕の姿が私よりも様になっているのは何故だろう。
まどかが私の隣に腰を下ろすと、花田さんは続けた。
「かなり昔に、西から日本に入ってきたらしくて、今では大した力も残ってないんだけどね」
ほら、女にしては背も高いでしょ?と、口元を緩めながら彼女が笑う。
確かに、彼女の『めりはりぼでぃ』は日本人離れしている気がする。納得だ。決して、特別私が断崖絶壁なわけではないのだ。そうなのだ。
私がうんうんと頷いているのを見て、彼女は可笑しそうに声を上げてから、
「しらたまちゃんの傍にいる近衛君なら理解できると思うけど」
そう前置きして、彼女は私と自分の方を順番に指さした。
「しらたまちゃんや私たちって、今ではかなり普通の人たちの中に混ざって生活しているでしょ?」
「……俺はたましか知らなかったし、あんたのことはさっき初めてそうだと知ったけど」
猫を被ることを止めたまどかが、小さく頷く。
花田さんは自嘲するように笑みを浮かべた。
「まぁ、確かに絶対数がかなり少ないから、そうなって当たり前なんだけどね。とにかく私たちって、異人って呼ばれる存在らしいの」
「………異人?」
「そうよ」
言葉を反芻したまどかに、花田さんは厳かに頷いてから、
「生まれながらにして、普通の人とは少し違う力を持っている人間のこと。往々にして、普通の人々の輪からはみ出してしまうことが多いの。しらたまちゃんは聞いたことなかった?」
話を振られて、私は身を強張らせた。周りから寒い、冷たいと怯えられた経験を思い起こしながら、正直に答える。
「私、家族いなくて。昔の記憶はあまりないから……」
「え」
「あらあら」
二人はそれぞれの反応を示す。
まどかは気づかわしげに、花田さんはあっけらかんと。
その様子からも、常人と異人の違いを感じた。