まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
(え!?なになに??)
「…………」
幾ら周りに人がいないからって、そんな、大胆な――。
「ふがっ」
鼻を摘ままれた。
ぎゅっと。
「はにふるの」
「…………ブサイクな顔だな」
(ま、ど、か、さ~ん?)
嘲るような冷笑に、私の頭の中の血管がブチッと音を立てる。
入学式での出来事をまだ根に持っているんでしょうけど、それとこれとは話が別だ。
乙女の鼻を摘まむなんて蛮行を、断じて許すわけにはいかない。
私が目を細めて、威圧感たっぷりに彼を見つめ返すと。
「…っ」
彼はたじろいだように体を揺らし、その顔が少し赤くなる。
でも、彼は手を離さない。
そして、あろうことか、訝しそうに首を傾げた。
「………お前の肌、冷たいよな」
「…………」
鼻を摘ままれたまま、彼を見る。
初対面で手首を握った時の事を思い出しているのだろうか。
(……あの時なんて、特に冷たかったでしょうに)
それを覚えていて、よくもまた、私に触れようなんて思えたものだ。
こっそり感心していると、彼はようやく鼻から手を離し、
「………え」
労わるように撫でた。
私を見下ろす視線は冷たいまま。
けれど、その指先は、とても優しく鼻先を滑る。
ちぐはぐなその様子に、胸が苦しくなって唇を噛む。
(まどか…、やっぱり、そこにいるのね)
今世ではもう、想いを通わせることはないけれど。
せめて。
「近衛さん」
「っ」
はっとしたまどかの指を、手で静かに払う。
「女子の肌に気安く触れないでください。周りから勘違いされても文句は言えませんよ」
生意気な微笑みを向け、髪を後ろへ流して格好をつける。
「俺の名前……」
ポツリと耳に届いた呟きに、彼の横を通り過ぎながら答えた。
「近衛 円さんでしょ?入学式で新入生代表をされていたので、知ってます」
「………」