まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
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放課後。
部活動へ向かう生徒たちの間を縫いながら、私は昇降口へ移動していた。
辺りに目を光らせながら。
(まどか……。まどかは…)
A組に行っても、彼の姿は既になかった。
近くにいたクラスの男の子に聞いたところ、今日は女子からの誘いもすべて断って帰宅していたとのことだった。
ていうか、まどか、毎日のように女子に誘われているのね。……想像はしていたけど。
嫉妬の炎を背後に纏ってその男子生徒にお礼を言い、ここまで歩いてきた次第だ。
昇降口は帰宅部と部活動生が入り混じり、大変な混雑だった。
ある程度人が退くのを待ってから、下駄箱から靴を取り出して履き替える。
(まどかなら、昇降口で長居はしない。すぐに学校を出るわ)
あの人は人目を惹く容貌の癖をして、かなり対人が嫌いな人だった。
(まぁ、事あるごとに群がられてきたら、人間不信にもなるわよね)
校門までの道を歩きながら、顎に手を置く。
(さて、ここで困ったことが一つ)
校門を出て、私は一人、ふっとニヒルな笑みを浮かべた。
「私、まどかの家を知らないわ」
(学校内で見つけられなかったら、詰んでるじゃないの)
がくりとうなだれて、手近な壁に両手をつく。
足元には雑草と思しき花が健気に揺れていた。
と、
「ねぇさっきの見た?綺麗な男子が向こう走っていったよね」
「見た~!あれ、多分このあたりで有名なブチャを追っていったんじゃない?」
「あ~ブチャね」
(ブチャ?)
なんだそれは、と、顔を上げて会話の聞こえた方を見れば、ある方向を指さしながら同じ学校の女子生徒たちが談笑をしていた。
どうやら先輩のようだ。
ブチャなるものが何かは知らないが、方角が分かっただけでも運がよかった。
女子生徒たちに心の中で感謝しつつ、私はそちらへと駆けだした。