まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
「………こんなところで、何をしてるんですか?」
しばらく呆けたようにこちらを見つめていた彼が、私の声に反応して瞬きをした。
視線を逸らしながら、小さく言う。
「猫と遊んでた。……悪いか」
まどかはふてくされたかのように、再びこちらに背を向けた。
私は草を踏みしめ、彼に歩み寄る。
背中を向けたままなのに、彼がこちらの動きに神経を集中させているのがありありと分かって、余計に愛しさが増した。
「どんな猫です?よければ私に見せてくれません?」
彼の背に声をかけると、体を強張らせながら、ちらちらとこちらの様子を窺ってくる。
そして、手元に視線を落とし、
「………ん」
私の前に、茶色いその子を掲げた。
「わぁ」
一言でいうと、【大迫力】。それに尽きる。
何がって?それはもう、サイズ、顔つき、態度。そのすべてだ。
体はどっしりとふくよか。
顔は若干潰れ気味で、鼻先へ向け皺が寄っている。
態度はと言えば、まるでえばりくさった王様のようにふてぶてしい以外の何者でもない。
(ブチャの意味が分かった気がする)
私はこれでもギリギリ可愛いと思えるけれど、見る人から見たら、不細工な茶色い猫。
略してブチャ。
顔の整ったまどかと、美猫とは言い難いブチャ。
並んでいると、そのちぐはぐさが凄い。
「ブチャったら」
イケメンにブスッとした表情で持ち上げられている猫に、思わず笑みを零せば、彼が首を傾げた。
「ブチャ?………こいつ、ちゃんと名前あったのか」
目を丸くして、ブチャと見つめ合うまどか。
「名前あるなら教えろよな。……俺は、てっきり……」
その頬が、夕陽の中でも赤く染まったのを見て、私のいたずら心がうずく。
「あら、違う名前で呼んだりでもしていたんですか?」
「っ」
慌てた様子でこちらを向いた彼。恐らく図星だったのだろう。
にやにやと笑みを浮かべ、私は詰め寄った。
「怪しいですね。なんて名前を付けたんです?」
「ち、ちち近寄るな!この性悪女!」