まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
――温かい。
私よりも冷たくなってしまった体じゃない。
――柔らかい。
氷のように硬く凍り付いてしまった体じゃない。
――まどかの匂いがする。
鉄さびに似た死の香りに包まれてしまった体じゃない。
彼の全部を体で感じながら、私は問いかけた。
「まどか、生きてる?」
「………」
背中を優しく叩いていた手の動きが止まり、彼が息を呑んだのが分かった。
そして、
「ばーか」
視界の端で、彼の差していた傘が地に落ちるのを捉えたと同時、まどかは両腕で私を抱きしめた。
「っ」
この世に再び生を受けて、おそらく十数年。
私の前世の最期の記憶はいつだって、彼の死に際と共に蘇ってきた。
幸福そうな彼の顔と一緒に、彼の死に顔がちらつく。
幸せと絶望が混ざり合った、幸福な悪夢。
許されるのなら、今度こそ、あなたと幸せを掴みたい。
でも。
(あんな思いは、もう二度としたくない)
その先で起こるかもしれない破滅の影が、私の希望を容易く砕く。
天秤に、かけるまでもない。
私が選ぶ選択肢は、いつだって、一つだけだ。
「落ち着いたか?」
彼が慎重な仕草で、体を離す。
私の顔を覗き込んで、困ったように笑った。
「俺じゃなきゃ、誤解されるぞ」
「………」
(あなたに限っては、誤解じゃないからいいんです)
頭の中で返答しながら上目遣いで彼を見れば、その頬が紅くなる。